机上は紳士を作る
会社からの帰り道、同期と会社の愚痴をこぼしながら大阪駅に向かった。
多くの人が行き交う大阪駅で動機と別れを告げて足を進めた。
これからどうなるか。
お互いぼんやりした不安と、学生とは勝手が違うあきらめのような、安堵のような感情。
型にはまったサラリーマンになりたくないな、反発心。まだそんな表しにくい感情をお互いふせ持っていると確認し合い、今日も別れを告げる。
ぼんやり明日の仕事の算段をつけていると電車は京橋についた。いつも通り京阪電車の方に向かうと、大きな人だかりができている。
まさか、電車がとまてるなんてことないだろう
そう思ったが、嫌な予感が当たった。バンドのライブのようにごった返した駅構内は、入場規制をかけていた。まるでロックフェスじゃないか。
しぶしぶ踵を返してJRに乗る。振り替え輸送をしている。
JR職員に振り替え輸送の券をもらった。
東海道本線、新快速野洲行きに乗る。車内は自分と同じように会社帰りのサラリーマンで詰め込まれていた。車両は人の熱気と、加齢臭と、汗の臭いで充満している。思わずしかめ面になる。ただ少しずつ慣れてくる。今日も「64」を読む。
京都駅に着いた。
30分程だったが、京阪に乗っている時より長く感じた。電車に振り回されている。少し疲れている。
奈良線に乗り換える。近頃のインバウンド効果で奈良線の乗り場は大きくなった。まだ新しいエスカレーターに乗る。
京都駅は少しずつおおきくなている。
以前よりもしゃれた店が増え、ただの廊下に穴をくりぬいて立ち飲みバル、ピザ屋、ATMにコンビニが入った。
京都タワービルがリニューアルした。八条口やアバンティ周辺の道路が改良された。
どれもこれも5年ほど前からだ。けだるい地方都市の駅独特の、整備が完成されてない感があったが、今はない。世界的な観光都市の顔をしようとしている。
いつの間にか町中が外国人だらけになっていた。外国語の放送が当たり前だし、なんてこともないところにも外国人がいる。
その影響は奈良線にも波及した。何十年と複線化が進まず、いつの間にか京都駅から伏見区、京都府南部への輸送は京阪、近鉄の私鉄勢に水をあけられていた。そもそもJRは諦めていた。しかし、それが動き出した。稲荷があるからだ。JRの稲荷駅は稲荷大社から一番近い。京都で1,2を争う観光スポットは今となっては外国といってもいい。それくらい外国人が多い。
JRはいまになって出っ張った斜面を削り、へこんだ崖を埋め立て、石を敷き詰め、線路を敷いている。果たしてこのインバウンド続く間に終わるのだろうか。
少し便利になるだろうこの奈良線に乗りながら、5年後の自分を重ねて工事を眺めた。
もう遅いのではないか。